2026.10.20

育人コラムvol.01|人が育つ評価と面談のつくり方:観光現場の定着率を高める“納得感”と“成長実感”

経営者向け コラム・インタビュー 経営・マネジメント 働きやすさ・働きがい OCVBからのお知らせ

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「育人コラム」では、沖縄県内の観光関連事業者を支援する「育人」登録講師が、それぞれの専門分野から、日々の仕事や経営に役立つ情報をお届けします。

組織において人材の確保だけでなく、採用した人材が長く働き、成長できる環境づくりも重要です。
今回はスタッフの成長や定着につながる「評価」と「面談」について、中小企業診断士の渡辺亨氏に解説していただきます。

コラム講師
渡辺 亨
ワタナベ トオル 渡辺 亨

人材育成・組織活性化を得意とし、20年以上の経験を持つ経営コンサルタント。経済産業省登録の中小企業診断士。

観光・サービス現場の「人が定着しない」「育成がうまくいかない」といった課題の解決を、理念浸透、評価制度の再設計、管理職育成、コーチング面談研修でサポート。スタッフが成長を実感し、チームが自ら動く組織づくりは高く評価されている。


沖縄県の観光業では、人材不足や若年層の早期離職が課題になっています。待遇の低さが原因だと考えられがちですが、沖縄観光コンベンションビューロー(OCVB)が令和7年度に実施した「観光業従事者を対象とした従業員満足度調査」では、「待遇」だけでなく、「評価の妥当性」に対する満足度の低さも示されており、人材定着を考えるうえで見逃せない課題の一つだと考えられます。

この課題の解決に向けて、既存の育人コラムでも、評価基準の明確化や管理職による継続的なフィードバック、日常的な対話の重要性が整理されてきました。

しかし実際の現場では、評価制度や面談を導入しているにもかかわらず、それが人材育成や定着につながっていないケースが少なくありません。
これまで経営者や従業員から話を伺う中でも、次のような問題をしばしば耳にしました。

▶人事評価はしているが、他社の評価表がベースなので、自社の業務にマッチしていない。
▶態度や意欲の評価だけで、日々の接客、スキル、後輩支援、改善行動が評価できていない。
▶評価基準があいまいで、具体的に何を頑張ればよいのかが分かりにくい。
▶面談は、部下にとって「注意される時間」「上司の都合を聞かされる時間」になっている。

人事評価や面談を行っていても、このような状態ではスタッフの成長意欲を高めるものにはなりにくく、納得感も生じず、かえって信頼関係が損なわれ、離職につながることすらあります。

このコラムでは、評価と面談を査定や注意のための手続きではなく、スタッフの成長と定着を支える仕組みとして機能させるための考え方と実践方法を紹介します。


1. よくある失敗:評価項目が雑だと、面談も育成も雑になる

多くの事業者がスタッフ育成のために評価の仕組みだけでなく、面談も取り入れています。
しかし、ここで注意してほしいのは、面談は「質」が重要であり、それは評価項目の具体性に大きく左右されるという点です。評価項目があいまいなままだと、評価者はどうしても主観で話すことになります。


たとえば、
「もっと積極性を出してほしい」
「責任感が足りない」
「接客態度をもっとよくしてほしい」
「リーダーらしく行動してほしい」
といった言葉は、よく使われます。

しかし、これだけでは部下は具体的にどうすればよいのか分かりません。

何をすれば「積極的」なのか。
どのような行動をすれば「責任感がある」と見られるのか。
「接客態度」とは、表情なのか、声かけなのか、説明の分かりやすさなのか。
「リーダーらしい行動」とは後輩指導なのか、繁忙時の判断なのか、他部署との連携なのか。

ここが明確でないと、評価者は「自分の印象」を伝えるだけになり、部下は「上司の主観で判断されているだけだ」と感じやすくなります。

特に観光業の現場では、日々の仕事の質が売上や顧客満足に直結します。にもかかわらず、評価表には「協調性」「責任感」「意欲」「積極性」などの抽象的な情意項目ばかりが並び、実際の具体的な業務行動には触れられていないケースが多いようです。

しかし、「抽象的な」評価項目だけでは、それをもとに面談をしても、部下の「具体的な」成長にはなかなかつながりません。

では、具体的な評価項目はどのように設定すればよいのでしょうか。

2. 評価項目は「態度」だけではなく「職務・責任・行動」で考える

まず必要なのは、現場の仕事を具体的に分解することです。
観光関連事業者であれば、たとえば次のような業務があるでしょう。

このように現場の仕事を具体化し、これを評価項目に加えれば、人事評価を「態度」だけ見るものではなく、仕事上の行動と成果を見るものにすることができます。そして、具体的にどのような行動を取ればよいのかを、スタッフも理解できるようになります。
 
ただし、すべての業務を評価項目に含めると多くなりすぎますので、特に重要な要素に絞るとよいでしょう。
評価項目は多ければよいというものではありませんので、小規模事業者であれば、最初は3~5分野を選んでそれぞれにいくつかの項目を決めるだけでも十分です。
 
例えば、
▶顧客対応
▶チーム貢献
▶業務遂行
▶改善行動
▶成長努力

というように大きな柱を決め、その中で「どのような行動をしてほしいのか」を言葉にしていきます。この際、現場で本当に見たい行動に絞りつつも、評価者が楽だからと、項目を少なくしすぎるのも避けましょう。

3. レベルの分かれ目が「明瞭でない」評価は、納得感を生まない

具体的な評価項目が設定できたら、次はレベル分けのしかたを考えます。この際、何が各レベルの分かれ目になるのかを明確にすることが大切です。それが不明瞭だと、評価される側に納得感が生じません。

たとえば「接客対応」という項目があったとしても、評価「5」とは、どんな状態になっていることを指すのか、「4」との違いは何か、評価を分けるポイントは何なのか、ということです。
これが分からなければ、評価者によって判断がばらついてしまいますし、評価される側も次はどんな状態を目指せばよいのか分かりません。

最初から細かくレベル分けや等級分けをする必要はありませんが、少なくとも次の3段階ぐらいのレベル分けはしておくとよいでしょう。

このように具体的に設定できれば、面談で部下に伝える内容も変わります。「もっと接客を頑張って」ではなく、「基本対応は安定してできています。次は、混雑時にお客様を待たせないための声かけや、周囲への応援依頼までできることを目標にしてほしいと思います。どうですか?」と伝えられます。部下も具体的な目標を持つことができるでしょう。

評価を行うことの本来の目的は、次に何をすれば成長できるのかを、本人が分かる状態にすることです。点数をつけること自体ではありません。ですから、レベルごとに目指すべき姿を明確にすることが大切です。

さて、ここまでは評価の中身について扱いましたが、次に、評価をする「人」についても触れておきたいと思います。

4. 評価者は、評価する前に「育成できる人」である必要がある

多くの現場では、上司やリーダーが評価者になります。ただ、部下より業務能力が高く、経験が豊富だからといって、必ずしも適切な評価ができ、部下を伸ばせる人であるとは限りません。

評価者には、少なくとも次の力が必要です。

観察する力
日常業務の具体的な行動を見る力
言語化する力
よかった点、課題、期待を具体的に伝える力
聴く力
部下の事情、考え、不安、希望を引き出す力
育成する力
次の成長行動を一緒に考えて決め、支援する力
客観性を保つ力
好き嫌いや印象ではなく基準に照らして客観的に判断する力
信頼される姿勢
部下から見て「この人に評価されるなら納得できる」と思われる在り方

つまり重要なのは、評価者が評価するだけの人にならないことなのです。

部下から見れば、普段は育成も支援もしてくれない上司が、評価の時期だけ厳しく判断してくると感じれば、納得感は生まれませんし、不信感が生じることもあります。

評価者は、評価面談の前から、日常的に模範を見せながら教え、任せ、見守り、聴き、建設的にフィードバックをしている必要があります。

言い方を替えると、評価者は、評価する人である前に、育てる人でなければならないということです。

また、経営者側も「部下育成を管理職の責任として与えている」というだけでは不十分です。評価者に対して、育成の方法、評価のしかた、面談の進め方、フィードバックの方法を具体的に示すとともに、トレーニングの機会を提供する必要があるでしょう。

続いて、評価面談についても考えてみましょう。

5. 面談は「伝える場」ではなく、納得をつくる対話の場

よくある評価面談のパターンは、以下のようなものかもしれません。

▶評価結果を伝える。
▶課題を指摘する。
▶会社の方針を伝える。
▶もっと頑張ってほしいと伝える。
▶最後に少し褒める。

このように、上司が話し続ける時間になってしまうことが多いようです。
これでは、部下にとっては「欠点を指摘されて注意を受ける時間」「会社や上司の都合を押しつけられる時間」になってしまいます。
フィードバックや方針の伝達はもちろん大切です。しかし、成長につながる面談とするためには、それと同じくらい「聴くこと」が重要です。

たとえば、評価結果を伝える前に、本人の状態や自己評価を尋ねて耳を傾けるという段階を作ったり、評価の結果や期待する次の行動についての考えを聴く、といったことができます。
自分で考えて話すことで評価を受ける側も自分自身を動機づけやすくなりますし、納得できる結論を得やすくなります。

他にも、課題を挙げるだけではなくよかった点を認める、今後とってほしい行動について上司としてどう支援できるかを話し合う、といったことも合わせて行うと、さらに部下の意欲向上につながります。

よかった点を認めるときに重要なのは、具体的な行動を扱うことです。
抽象的に「よく頑張っているね」と言われても、本人は何が評価されたのか分かりません。さらに、その後に注意が続いたりすると、「注意するためのクッションとして褒められただけ」と、かえって否定的に受け止められることもあります。
効果的な承認には、具体性が必要です。どんな行動がよかったのか、その行動が誰にどんなよい影響や結果をもたらしたのか、ここまで伝えて、初めてよい行動が強化され、育成につながります。

これらの要素をまとめると、たとえば、次のような流れの面談もできるでしょう。

6. 小規模事業者でも始められる「評価と面談の見直し」3ステップ

ここまで見てきたことを3ステップで簡単に振り返ってみましょう。

ステップ1:評価内容の見直しと、業務評価項目の設定

 

まずは、現在の評価内容を見直します。確認するポイントは次のとおりです。

チェック項目確認のポイント
情意項目ばかりになっていないか意欲・協調性・責任感だけでなく、実際の業務行動の評価項目が入っているか
他社の評価項目をそのまま使っていないか自社の接客、運営、安全、チーム連携に合う内容になっているか
評価項目の数は適切か評価項目が多くなりすぎず、特に重要な要素に絞った内容になっているか
評価者には簡単でも、具体的な成長につながりにくい内容になっていないか
欠点探しになっていないかできていること、次に伸ばすことが見えるか
次の成長行動が分かるか評価結果を見て、本人が何をすればよいか分かるか

見直した結果、態度などの情意項目だけを評価している場合は、業務項目の追加を行います。

具体的には、まず日常業務を分解してどんな業務分野があるのかを確認します。次に、それぞれの分野について、各分野でスタッフに求める行動を考えます。最後に、特に重要だと思う分野を3~5個選んで、評価項目として設定します。

▶評価例

ステップ2:各項目に「期待水準」と「次のレベル」を書く

 

評価項目ごとに、評価レベルを3~5段階で設定します。この際、それぞれのレベルに期待する状態と、具体的な行動例を決めます。

評価制度は、最初から完璧である必要はありませんが、少なくとも評価者の頭の中にしか基準がない状態は避ける必要がありますので、期待内容を明確にすることが大切です。

ステップ3:評価面談を「結果通知の場」ではなく「次の行動に向かう場」にする

 

面談は、一方的に評価結果を伝えて終わりにしないことが大切です。むしろ、成長への動機づけにつながるように、以下のような双方向のコミュニケーションを行います。

▶本人の状態を確認する。
▶本人が頑張れたと思う点や自己評価を尋ねる。
▶よかった点を具体的に伝える。
▶評価結果や上司の課題感について、本人の考えを聴く。
▶とってほしい行動を具体的に伝え、本人と検討する。
▶上司はどんな支援をするかを、本人と検討する。

7. 終わりに:評価と面談の改善を、人材定着と事業の安定的な発展の土台に

事業の安定的な発展には、人材の定着が欠かせません。そして人材定着には、給与や待遇の改善も大切ですが、適正な評価や面談による成長への動機づけと成長実感を得られる環境づくりが大きなポイントとなります。

実際の業務に即した評価項目を設け、求めるレベルと評価基準を明確にすることが大切です。また、評価者が育成責任を担い、聴くことと具体的なフィードバックを両立した面談を行う必要があります。

さらに、次に取る行動を本人と合意し、上司や会社が必要な支援を行います。こうした取組を積み重ねることで、働く人が定着しやすい職場と、事業の安定的な発展を支える土台を築くことができます。本稿が、その見直しの一歩となれば幸いです。



【参考資料】
・一般財団法人沖縄観光コンベンションビューロー(OCVB)「令和7年度観光人材育成・確保促進事業『観光業従事者を対象とした従業員満足度調査』実施結果について」2026年1月29日公表
 https://www.ocvb.or.jp/topics/4727
 (調査対象:沖縄県内の観光関連従事者〈経営者・役員・理事等を除く〉/調査期間:令和7年10月1日~11月30日/調査方法:WEBアンケート/有効回答数:529件)
・育人(はぐんちゅ)(一般財団法人沖縄観光コンベンションビューロー運営)「【コラム】従業員満足度調査 実施結果について―観光業界の未来を創る「人が輝き続ける」組織づくり―」2026年2月13日
 https://okinawa-hagunchu.jp/news/2372/

最後までご覧いただきありがとうございます。
評価や面談は単に業務の結果を確認したり、課題を伝えたりするためだけのものではありません。日々の仕事の中でスタッフの成長を支え、次に目指すことを一緒に考える機会として見直すことが、働き続けやすい職場づくりにつながります。現在の評価項目や面談の進め方を見直す際のヒントとして、ぜひ日々の取り組みにお役立てください。

今回の記事を執筆した渡辺亨氏の詳しいプロフィールや支援内容は、講師ページからご覧いただけます。



一般財団法人沖縄観光コンベンションビューロー(OCVB)では沖縄県より観光人材育成・確保促進事業を受託しており、沖縄県内の観光関連事業者を対象に、各社経営のお悩みに対応できる専門家を無料で派遣し、課題解決をサポートするハンズオン支援を実施しております。
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【本件に関するお問い合わせ】

(一財)沖縄観光コンベンションビューロー 国内事業部 受入推進課 観光人材育成センター

TEL:098-859-6129 Mail:ikusei@ocvb.or.jp

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